ブロックチェーンセキュリティ企業のサーティックが2026年7月23日に公開した調査レポートによると、2026年上半期に確認された「レンチ攻撃」の件数は52件にのぼり、前年同期(39件)から33.3%増加した。さらに被害額は前年同期比で約11.8倍に膨らんでいるとみられ、オンラインの詐欺とは異なる「リアル世界での暴力・脅迫」が暗号資産保有者にとって深刻なリスクになりつつある状況が浮かび上がってきた。
「レンチ攻撃」とは何か
「レンチ攻撃(Wrench Attack)」とは、暗号資産の保有者を物理的な暴力や脅迫によって拘束し、ウォレットへの送金操作や秘密鍵(資産にアクセスするための暗号化された合言葉)の開示を強要する犯罪手口を指す。名称は「高度なハッキング技術がなくても、スパナ一本で人を脅せば資産を奪える」という皮肉から来ているとされる。フィッシングやマルウェアといったサイバー攻撃とは異なり、被害者本人が「自分の意志で」操作させられる点が特徴で、ブロックチェーン上のトランザクション(取引記録)は正規の送金として処理されてしまうため、事後の追跡・凍結が極めて困難になりやすい。
手口の特徴と狙われやすい背景
今回の調査から読み取れる傾向として注目すべきは、被害額の急増が件数の増加ペースをはるかに上回っている点だ。件数が33%増であるのに対し、被害額は11.8倍という乖離は、1件あたりの被害規模が大きくなっていること、つまり「より資産を多く持つ保有者」が標的にされている可能性を示唆している。SNSやX(旧Twitter)で保有資産・高額NFT・投資成功体験などを公開している個人が、ロマンス詐欺的なアプローチや偽の投資コミュニティを経由して実生活を特定され、その後に物理的な接触・脅迫に発展するケースも報告されているとみられる。また、自宅住所や日常の行動パターンがSNS投稿から割り出されるリスクも指摘されており、デジタルとリアルの境界が薄れていることが被害拡大の一因と考えられる。
被害に遭わないための注意点
ChainTrackの視点から整理すると、レンチ攻撃への対策は「資産の存在を知られないこと」と「知られた場合でも奪えないようにすること」の二層で考えるのが有効だ。まず、SNSや投資コミュニティでの保有額・銘柄・ウォレットアドレスの公開は最小限に抑えることが重要となる。次に、ハードウェアウォレットを自宅以外の安全な場所に分散保管したり、マルチシグ(複数の承認者がいないと送金できない設定)を活用したりすることで、仮に脅迫されても即座に全資産を渡せない仕組みをあらかじめ構築しておくことが有効な対策の一つとなりうる。万が一被害に遭った場合や脅迫を受けた場合は、まず身の安全を最優先にしたうえで、警察への通報と並行してオンチェーン調査の専門機関への相談も選択肢となる。
まとめ
2026年上半期のレンチ攻撃は件数・被害額ともに急増しており、SNSでの資産公開が標的化のきっかけになっている可能性がある。ブロックチェーン上では正規の送金に見えてしまうため、被害後の資金回収は困難なケースが多い。「見せない・分散する・すぐ動かせない仕組みを作る」という三つの視点で事前対策を講じることが、現状では最も現実的な自衛策といえる。
参考: JinaCoin
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